日本企業がAIやRPAを使いこなすのは難しい

僕は会社員だが、現在AIやRPAといった最近流行りの技術導入を担当している。

仕事の中で見えてきたものがあるので記載したい(半分愚痴)

 

◆AIやRPAは簡単なツールじゃない

当たり前だが、AIやRPAは導入してもすぐに結果が出るほど簡単なシロモノではない。

 

まず社員自身がITリテラシーを高める必要があるし、後述するインプット情報のメンテナンスや、業務フローの最適化などやることは山盛りだ。

 

ネットを見ると「チャットボットでエンドユーザーに対する窓口業務を自動化した!」だの「RPAのロボットで何千時間分も業務を効率化した!」だの夢のような記事が大量に転がっている。たぶんITについてよく知らない経営幹部層が飛びつくケースが多いのだろう(僕の会社もたぶんコレ)

 

残念だが、そんなに甘いものではない。

 

◆そもそも業務を自動化するロボットの作成は難しい

AIと聞くと大層なことができそうだが、実際のところまだ技術としても黎明期であり、理想と現実のギャップに困惑することも多い。

 

チャットボットが世間で騒がれているが、あれを問い合わせ窓口業務に使おうとするとお客さんから来るであろう質問とそれに対する回答を全てパターン化してチャットボットに覚え込ませる必要がある。

 

つまりAIはまだ自動学習する段階ではなく、人間が全て想定されるケースをあらかじめ教えてあげる必要があるのだ。(将棋やチェスのAIも全てのパターンを網羅しているに過ぎない)

 

問い合わせの内容をデータとして蓄積していない企業は、まずインプットとなるデータの整備から始める必要があり、それには凄まじい労力を要する。

 

RPAも似たようなものだ。RPAはホワイトカラーの事務的な業務を自動化するツールだが、やはり普段の業務手順をロボットに覚えさせる必要がある。

 

僕も実際にRPAのロボットを作ってみたが、業務を自動で実行しようとするとエラーが頻発する。なぜならロボットに覚えさせたExcelファイルの名前等が実際の運用時に異なるとそれだけで不整合を起こし、エラーと判定してしまうからだ。

 

このようにRPAは非常に”デリケート”なツールであり、実運用に向けて失敗と修正を繰り返す必要がある。

ただ、日本人はシステムのエラーを基本的に”あり得ない”ものだと認識している節があり、僕の会社でもユーザー部門にRPAをいじってもらったところ「エラーが頻発してめんどくさい」との声が多かった。

 

まずはツール自体への認識を改める必要があるだろう。

 

◆社員の仕事へのモチベーションが低い

これは散々言われているので、僕が記載するまでもないかもしれない。

そもそもの話だが、実際に業務をしている社員は「効率よく仕事をしよう」などと思っていない。理由は単純で効率よく仕事をすると、まったく自分に関係のない業務の尻拭いをさせられ、結果的に損になるからだ。

 

もっと深刻なことを言うと、AIやRPAを使って業務を効率化すると自分の居場所が無くなるという切実な理由もある。

 

日本企業では、しょうもない雑務をダラダラと時間をかけて処理するほうが結果的にお金を稼げる仕組みになっている。産業革命以前の労働者は個人が技術を囲い込んで職人化し、仕事内容をブラックボックス化することで自分の価値を高めて資本家とやりあっていた。おそらくこれと似たことが現代の日本企業でも発生しているのだろう。

 

そんな環境でいきなり「AIやRPAを使って効率化!」と言われても業務担当者は困惑するだけだし、自分の居場所を守るために力の限り抵抗するのは当然とも言える。

 

だが歴史は必ず繰り返す。産業革命が起こった結果、多くの職人がただの労働者に落ちぶれてしまったように、単純作業にしがみつく社員は時代の流れに一掃される運命だ。

 

◆ロボットのメンテナンスが大変

たぶんこれが一番重要な問題だが、ロボットは作ったらそれで終わりではなく継続的にメンテナンスする必要がある。

 

具体的には業務内容が変われば、それに応じてロボットへのインプット情報を更新する必要がある。例えばチャットボットを窓口業務で利用している場合、何か新しいサービスを始めた際に、新たに来ることが想定される質問とそれに対する答えを紐づけてチャットボットに追加で覚えさせる必要がある。

 

RPAの場合も同じで、例えばExcelから別のExcelへ記載内容を転記するロボットを運用している場合、Excelのフォーマットが変更になったときにその変更内容をロボットに認識させないとエラーが発生してしまい、業務が止まってしまう。

 

システムのメンテナンスにはそれなりの知識が必要だ。ユーザー部門にロボットのメンテナンスまでお願いする場合、果たして知識を蓄積するための時間的な余裕はあるのだろうか(個人的には、RPAでも最低100時間以上は時間をかけて勉強しないとまともに運用できないと思う)

 

話を聞くと、RPAのロボット作成を外部ベンダーに丸投げしている企業が多いらしい。そんな状態ではまず間違いなくロボットの運用保守はできないので、極端な話インプットにするExcelのファイル名が変わるだけでロボットはエラーを吐き出し、使い物にならなくなってしまう。高いお金を出してロボットを作成してもらったのにもったいない話だ。

 

◆まとめ

多くの日本企業はAIやRPAを利用する以前に、以下の基本的な課題を解決する必要があると思う。

①既存の業務に無駄がないか見直す

⇒僕の会社の話だが、業務で使用しているExcelがやたら凝っている。明らかに使っていない項目なのに「昔からある」という理由だけで残っているため、無駄に複雑でわかりにくい”キメラ”状態だ。また、Excelを作成する担当者によって項目名が微妙に違ったり、ファイルの記載内容に西暦と和暦が混合していたり、細かいツッコミどころはかなり多い。

こういった無駄を省いたり、仕様を統一することでAIやRPAを使わなくても、自ずと業務が効率化されるのではないだろうか。

 

②業務内容の範囲を明確にする

⇒これをやらないといくら業務を効率化しても結果は出ないだろう。最悪出番のなくなった社員は首を切られる可能性まである。

 

③業務をブラックボックスにするのではなくフロー化して共有する

⇒正直これが一番重要だと思う。日本企業の社員は自分の居場所を死守するため及び残業代を稼ぐために簡単な仕事さえもブラックボックス化する。その結果、自分がどのような仕事をしているか周囲から実態を評価されにくくする。「忙しい忙しい」言ってたのにフタを開けてみれば小学生でもできることをやっていたなんてよくあることだ。

自分がどんな仕事をしているか、どのような手順で処理しているか、どれくらい時間をかけているかについてはきちんとフローに起こして公開するべきだ。抱えている仕事の物量を客観的に評価してもらうことで、上司も適切な仕事量を配分しやすくなるはずだ(これすらできないなら業務効率化は夢のまた夢なので諦めたほうがいい)

 

以上、思うことを長々と書いたが、現実は厳しいと思う。残念ながら僕の会社を見渡しても上記のことを実現できる気があまりしない。たぶん強いリーダーシップを持つ人間がトップにならないと無理だろう。

 

ただ、僕も実際にAI技術に触れてみて、この分野には凄まじいポテンシャルを感じた。今後はAIをうまく使いこなす企業や人間が勝者になっていくことは間違いない。

 

僕自身、AIが個人の生活と密接に結びついた世界の到来を楽しみにしている。